2016/10/03

大榎ゼミ,台北へ行く

 「卒業制作」を目指す学生が多く参加している大榎ゼミでは,例年,夏期休暇期間を利用して,各地のアートイベントを見学するゼミ合宿を行っています。一昨年は「横浜トリエンナーレ」を見学して横浜市寿町の「ドヤ」(主に日雇い労働者が宿泊する安宿)に宿泊体験,去年は新潟県越後湯沢の学生厚生施設に宿泊しながら,同県十日町市を中心に開催される「越後妻有アートトリエンナーレ」を見学,そして本年は台北市(台湾)で開催中の「台北ビエンナーレ」を中心に,「台北アート事情」を見学する旅となりました。

 もう10年以上も前になりますが,韓国光州市で開催される「光州ビエンナーレ」の見学へ出かけた際には,ゼミメンバーの3分の1ほどの参加にとどまりましたが,今回,大学からの助成対象となる「海外ゼミ研修」の採用を受け,旅行代理店風に「格安で海外へ」と呼びかけたところ,メンバーのほぼ全員が参加となりました。ただし,参加者が増えたことで日程調整が難しくなり,結果,中秋節の4連休という,日本で言えばゴールデンウィークの真っただ中に飛び込むような羽目となったわけですが……。

 1日目,台風14号が南に逸れ,羽田発の早朝便は,ほぼ,予定通り台北国際空港に到着。その後,ホテルに荷物を置いて,すぐに,市内にある現代美術のギャラリー「一年画廊」へ移動し,このギャラリーを運営するアーティスト鈴木貴彦さんのレクチャーを受けました。内容は,台北アート事情からはじまって,おススメの夜市やグルメ情報,それに台湾映画の紹介まで,短時間のうちに盛りだくさんのお話を聞くことができました。その後,我々はレクチャーの内容に沿って,市内の美術館,博物館,それにアートセンターを巡ることになります。

 ところで鈴木さんは,本学のメディア工房スタッフとして勤務した後,世界各地のアーティスト・イン・レジデンス(芸術家を招き創作を支援する活動)での創作活動を経て,現在,台北市を拠点に創作活動をされているという経歴の持ち主です。ちょうど「台北ビエンナーレ」を開催中の台北市立美術館において同時開催されていた子供のための展覧会「小・大 Small or Big」展にも出品されており,現地で活躍中のアーティストから,直接お話を伺うことができたのは,とてもラッキーだったと思います。

 さて,2日目以降の行動では,今回の見学のメインである「台北ビエンナーレ」について語らなければなりませんが,ここで一番驚かされたのは,作品や企画の内容よりも,何と言っても展覧会に関する「価格」でした。
 というのも,まず,入場料が学生団体料金で1人12台湾ドル,通常の大人料金でも30台湾ドル。これは,日本円に換算すると約3倍ちょっとですから学生は40円弱,通常料金でも100円弱です。2年ごとに開催される美術館最大の国際企画展の入場料金が100円というのは,他では考えられません。それに,ミュージアムショップで購入したビエンナーレのガイドブックもまた,台湾(中国)語版・英語版ともに各100台湾ドルでしたから,日本円に換算すると各300円台で,比較的小さい判型とはいえ,これまたあり得ない値段でした(さらに驚くことに,帰国後確認したところ,ガイドブックの内容は,すべてPDFファイルとして,フリーでダウンロードできるようになっていました!)

 確かに,地下鉄など公共交通機関の料金は格安ですし,夜市などの食べ歩きの際にも,物価の安さを感じることができますが,一方,コンビニでの買い物などでは,ほとんど東京で生活する感覚と変わらないというのが台北市の物価です。ですから,これは政策的に低料金となっているのです。文化事業に対しても「独立採算」などと,シブいことを言われることが多い我々の国や自治体とは,大きく異なる考え方があるということでしょう。

 じつは,鈴木さんが運営している「一年画廊」もまた,期限付きながら,台北市から無償で提供されているスペースなのです。台北市内には,「一年画廊」のような,古い施設をリノベーションして再利用しているたくさんの文化施設が点在しています。

 一般の観光客でも簡単にアクセスできる代表的な施設としては,山の斜面に自然発生的に出来上がった街を,アーティスト・イン・レジデンスの村に変えた「寶蔵巌国際芸術村(通称:トレジャーヒル)や,市内中心地にある酒造工場跡地を,映画館やカフェもあるおしゃれなスポットに変身させた「華山1914文創園区」などがあります。これらにおいてもまた,あまりお金をかけずにスペースを文化施設へ再利用している様子を確認することができます。

 芸術なのにお金の話ばかり,ですが,でも,これは重要なことです。つい,東京の常識であらゆる物事を考えがちですが,台北スタイルともいえるような方法があることを垣間見ることができた良い機会だったと思います。
大榎淳


・一年画廊(公式ページ)
http://1yeargallery.com/
・台北市立美術館(公式ページ)
http://www.tfam.museum/
・台北ビエンナーレ2016(公式ページ)
http://www.taipeibiennial.org/2016/
・台北ビエンナーレ2016ガイドブック(台湾(中国)語版)
http://www.taipeibiennial.org/2016//file/2016TB_Guidebook_TC.pdf
・台北ビエンナーレ2016ガイドブック(英語版)
http://www.taipeibiennial.org/2016//file/2016TB_Guidebook_EN.pdf
・台北市立美術館(台北ナビ)
http://www.taipeinavi.com/miru/7/
・寶蔵巌国際芸術村(台北ナビ)
http://www.taipeinavi.com/play/491/
・華山1914文創園区(台北ナビ)
http://www.taipeinavi.com/play/216/

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