2015/08/07

【学問のミカタ】宿題を見つける

8月の共通テーマは「宿題」。

「8月の宿題」っていうと、夏休みの宿題を連想しちゃいます。今回、このテーマを担当するのは、スポーツコーチングが専門の遠藤愛です。あともう一つの専門はテニスです。この「宿題」というテーマで私が思い起こすことを書いてみます。

 私は大学三年の4月にプロテニスプレーヤーになりました。といっても、プロになるためにテストを受けたわけでもなく、テニス協会に登録をしただけなのですが……(現在は、ランキング何位以上などの基準があります)。では、アマチュアからプロになって、何が変わったのかというと、「宿題」なのです。

 私は、アマチュアの時から競技に対する意識は高い方だったと思います。つまり、競技に打ち込む姿勢はできていた方だった。でも、やっぱりそれでもプロで通用するためには、さらにその意識を高める必要がありました。

 プロはその日行うトレーニングを最高のものにすること、その積み重ねが勝ちに繋がります。そのために体調を整えてトレーニングに臨まなくてはなりません。一日のトレーニングが終わると、翌日のトレーニング開始から逆算して生活します。何時に寝れば睡眠時間が十分取れるか、そのためにはいつ食事をすれば良いか、そのためには、……といった具合です。

 そして一日の始まりにすることは、朝起きて自分の体調を“みる”こと。

 睡眠は十分取れたか、食欲はどうか、疲労感はどの程度残っているかをみて、トレーニングを始めるまでの準備をどのようにするかを考え、実践する。体調が良いときは自分の食欲に従って栄養を取り、通常のアップを行います。疲労感が強ければ、食事で果物や野菜を少し増やし、炭水化物をゆっくりとります。もしトレーニング場所までの移動で休めるなら、もう一度軽く寝ることもあります。

 次にアップ(準備運動)です。

 私の場合は、いつもより時間をかけて走って体を起こし、動かざるを得ないほど激しい動きをあえて取り入れます。「体が起きていない」状態でトレーニングをすると怪我をしてしまうので、激しい動きを入れて無理矢理、体を動かします。体はいい状態の動きを覚えていて、頭ではいい状態での動きを理想として動いてしまう。そこに体がついていかず、怪我をする、調子を崩すという循環に陥ります。なので、常に心がけることは「その日のベスト」を目指すことです。そのためには自分を見つめ、その日の課題を見つけ、それをクリアしていかなくてはいけない。

 子どもの頃、アマチュアの頃は指導者の指摘を待ち、それを受けて実践していました。つまり「宿題」を出されるのを待っていた、ということです。でもプロで活躍するためには、「宿題」を自分で見つけること、さらにはその解決方法を自分で見出し、実行しなくては勝っていけないことに気づきました。こうした自己分析に優れていないないと、コーチングが原則禁止されているテニス競技において、天候、環境、自分の調子、相手の調子を見て戦術やプレーを変えてくるレベルの相手に太刀打ちできません。

 私は引退後、大学で教える道を選びました。以来、私が学生に求めていることは「自ら学ぶこと」です。私のゼミでは学生が自分でテーマを見つけ、研究ノートを書いていきます。自分の興味や素朴な疑問からテーマを設定し、それを調べていくのです。

 皆さんはテストを受けて、正解の数を競うことが多いと思います。でも世の中には正解のない問題がたくさんありますよね。自分の競技者生活を振り返っても、日々の体調によって異なる正解が引き出されること、昨日のやり方は今日必ずしも正解でないことが当たり前でした。大学では、明らかにしたいことを設定し、明らかにするために何をしていけば良いのか、つまり「宿題を自分で考えて実行すること」が求められる場でもあると思います。

 今年もゼミ生がテーマを決めました。「プロレスはスポーツなのか」「スポーツと人種」「小学校低学年生に対する陸上競技の指導方法」「プロ野球の16球団構想」などなど上がってきています。知る、学ぶ面白さを、身を持って体験していって欲しいのです。

 この夏、自分で宿題を見つけて、ちょっと取り組んでみませんか?
2013年度オープンキャンパスの遠藤先生の体験授業「プロスポーツの仕組み

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